「顔の見える顧客」という前提の揺らぎと学習のレベル3|なぜ私は日本文化へ跳躍したのか【至誠のマネジメント12】

こんにちは、パラーツの鈴木です。

前回の「至誠のマネジメント11」では、専門性の枠組みを打ち破る「学習レベル3」について触れました。しかし、「学習レベル3」と聞いても、実際に体験してみないとその感覚をイメージすることは難しいかもしれません。

まえがき

今回の記事では、文化人類学者グレゴリー・ベイトソンが提唱した「精神の生態学(学習の3段階)」という理論を補助線に用いていきます。

なお、ベイトソンの学習理論については、文芸批評家の浜崎洋介先生がYouTube動画にて大変分かりやすく解説されています。関心のある方は、ぜひ併せてご参照ください。

参考動画:大人になってからの勉強って必要?/浜崎洋介先生(YouTube)

ベイトソンの「学習の3段階」と建築実務の照らし合わせ

●レベル1(個別の知識・ルールの習得)

建築の法規を覚え、図面の描き方を習得し、言われた通りに作業をこなす段階です。

●レベル2(前提・枠組みの習得)

「目の前の施主の要望」と「建築士としての専門知・法規」を掛け合わせ、個別の建築を最適に納めるプロセスを習得する段階です。「これが建築設計だ」という自分なりの定石(枠組み)を完成させる段階でもあります。多くの建築士・専門家は、このレベル2の枠組み(自分の得意領域)の中で一生を過ごし、そこから出ようとすることはほとんどありません。

●レベル3(前提・枠組みそのものの解体と再構築)

それまで自分を支えていた「レベル2の前提(定石)」が通用しなくなったとき、枠組みそのものを問い直し、より高次の次元へと跳躍する段階です。

レベル3の段階:「設計条件(Why)」の喪失という原体験

私自身、この「レベル2の枠組み」を強制的に破壊される経験をしました。それは、従来の建築設計事務所の殻を破り、メーカーで開発業務に携わるようになったときのことです。

そこで突きつけられた最大の壁は「顔の見える顧客が存在しない」「施主の声を聞くことができない」という事実でした。

設計事務所時代には当たり前の前提であった「誰のために作るのか」という設計条件(Why)が、一瞬にして白紙になったのです。

「定石」と言われる建築構法を適用する以前に、「そもそも何のために(Why)これを作るのか?」という、ものづくりの根本的な根拠を根底から揺さぶられました。それまでの自分の常識がガラガラと崩れ去った瞬間です。

しかし、この「ものづくりの根本的な根拠」という問いに打ちのめされたからこそ、私は「人間にとっての真の根拠=日本文化・歴史」を紐解くという新たな探求へと踏み出すことになりました。

流行のニーズか、根本的なニーズか|日本文化への跳躍

顔の見えない不特定多数の顧客に向けてものづくりをするとき、多くの企業は「マーケティングによる流行のニーズ」に頼ることになります。しかし、流行は一端の消費で終わり、時代とともに去り行く一時的なものに過ぎません。

私自身、肌感覚として「流行のニーズ」を追いかけることの限界を痛感していました。だからこそ、私が求めたのは、時代が変わっても決して揺らぐことのない「人間にとっての根本的なニーズ(安心・安堵・ゆたかさ)」でした。

これこそが、私が単なる建築の枠(レベル2)を超え、日本文化や伝統思想という新たな次元(レベル3)へと跳躍した瞬間でした。

結び:前提を疑う「至誠」が未来の構法をつくる

「学習レべル3」とは、単に難しい学問を修めることではありません。「自分を支えていた前提(設計条件)が通用しなくなった時、その時に恐怖から逃れずに、より深い根源(Why)へと降りていくこと」です。

建築や工学において、技術(How)を担う技術者は何よりも「根拠」を大切にします。根拠を明確にして進まなければ、課題の根本解決も、継続的な発展も、そして大きなイノベーション(跳躍)も起こり得ないと信じているからです。私自身、この「根拠を徹底的に突き詰める」という習慣が骨の髄まで染み込んでいたからこそ、前提が崩れた際、枠を超えて真の根拠(日本文化)を模索することが自然の成り行きでした。

パラーツ計画技術研究所の活動の根本には、内村鑑三先生の「後世への最大遺物」の思想があります。自らの命を全うし、思想・事業・基盤という三つの遺産を未来へ手渡す生き方です。

これを私なりに実践的に解釈すれば、「自らの天命(役割)を肯定して深く理解し、その理解と思想を仕事の成果として社会に遺す。それが人々に共感されれば事業となり、成果が積み重なれば未来を支える頑強な基盤となる」ということです。

自らの天命や「Why(なぜつくるのか)」を見失っていては、本当の仕事は何も進みません。

時代や環境の前提が揺らぐ現代において、私たちはもう一度「足元の根拠」に立ち返り、一人ひとりが自らの職分(天命)において一隅を照らす至誠の仕事を積み重ねていく必要があります。それこそが、100年後の未来へ確固たる足場を遺す、私たちの「現代の美学」だと思うのです。(パラーツ×Gemini)

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【第三巻】『ワークプレイスの知 苦手意識があるワーカーのための法を味方につける方法!』
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パラーツ計画技術研究所 知の構法構築家 鈴木邦彦

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管理人

パラーツ計画技術研究所 代表 / 一級建築士・工学修士

専門領域:建築構法・建築生産・ワークプレイスデザイン・ものづくり経営
主要資格等:一級建築士 / 監理技術者 / 儀礼本科修了 / 茶道文化検定
実績・執筆:Amazonカテゴリ1位獲得著者(単著3冊)、公益財団法人 建築技術教育普及センター テキスト共著 ほか

【パラーツにおける「3つの探求軸」】
■ 建築構法の専門家として
一級建築士として長年建築の現場や監理に携わってきた視点から、構法学の本質を現場実務に活かすことを探求してまいりました。当ブログ「パラーツ」にて、その知見と技術的成果を余すことなく公開していきます。

■ ものづくり経営学の探求者として
ものづくり経営学に基づくマネジメントを探求し、現場実務のマネジメントに活かす実践的な方法を伝えていきます。

■ 日本歴史・文化の探求者として
日本の歴史の探求者として、先達に感謝しながら、歴史の本質と先達の思いを未来へ繋いでまいります。

【学歴・職歴】
・1987年:明治大学大学院 博士前期課程修了(工学修士)
・1987年-1997年:集工舎建築都市デザイン研究所
・1997年-2002年:機械土木系事業会社
・2002年-:インテリア・什器系事業会社
・2022年-:パラーツ計画技術研究所 設立
「建築・都市・土木・インテリア」という多様な領域にまたがり、「開発・設計・監理・管理」という多角的な実務経験を長年にわたり積み重ねてまいりました。

【執筆・著書実績】
[単著]
・『ワークプレイスづくり 安心とゆたかさのために』
・『ワークプレイスづくり 現場哲学を持ち創意工夫を凝らす方法!』
・『ワークプレイスの知 苦手意識があるワーカーのための法を味方につける方法!』

[共著・公的テキスト等]
・『インテリアプランナー更新講習テキスト ワークプレイスのリ・デザイン』(公益財団法人 建築技術教育普及センター)
・『インテリアプランナー更新講習テキスト New NormalとWorkplace』(公益財団法人 建築技術教育普及センター)
・『SD別冊25 近未来実験集合住宅NEXT21「部品3パート」』
・『コンバージョン[計画・設計]マニュアル「サブシステム・インフィル」』
・『群居29 特集X年目のすまい』 ほか

【ブログ運営の目的と基本姿勢】
当ブログは、これまでの人生の中で縁をいただいた専門・組織・分野における多様な実務経験と実直な学びを基に、ワークプレイスに関連する技術的成果により、これからの未来を生きる後世の役に立つために創業した「パラーツ計画技術研究所」の公式ブログです。

自らの専門分野を広義・狭義にわたり説明すると共に、関連する先達や第一人者の成果を尊重・引用させていただきながら、読者の実務や人生に役立つ「生身の知恵(単なる知識ではなく、本質を見抜く智慧)」のプラットフォームとして発信を行っています。

[参考文献およびAI協働ポリシー]
本記事の執筆にあたっては、時代や分野を越えた「より良い方法」を導き出すため、各分野の先達や第一人者の知見を拝受すると共に、AI(Google Gemini)との対話を通じて得られた知見を情報の整理および構造的な考察の補助として活用しています。人間の「身体感覚(手)」とAIの「知(脳)」が尊厳を持って協働し、時空を越える「安堵」の空間を追求する――これからの時代における「人間とAIの共生」のあり方を、本ブログを通じて実践・記録しています。

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