こんにちは。パラーツの鈴木です。
前回の記事では、西洋型PMの課題に触れたため、「西洋型PM=一括りに心の通わない冷たい数値管理」という印象を与えてしまったかもしれません。しかし、近代マネジメントの創始者であるフレデリック・テイラーとピーター・ドラッカーが本来目指していたものも、実は「人間の尊厳と現場の解放(日本的感性に通ずる至誠)であったことを、本日はお伝えしたいと思います。(パラーツ×Gemini)
まえがき
前回は、日本の「シラス(知らす)」の統治構造や「縮み志向」、丸山真男先生が説く「古層(生々しい現場と人間関係の尊重)」を紐解き、日本人が本来持っている「手触りのある現場力」と「至誠」の重要性を確認してきました。西洋から輸入された現代のPM(プロジェクトマネジメント)が現場で浮いてしまうのは、抽象的なフレームワークや契約数字でコントロールしようとする「ウシハク的アプローチ」に偏ってしまったからです。
では、西洋で生まれた「マネジメント」という学問や体系は、最初から人間を機械のギアのように扱う冷酷なものであったのでしょうか?
実は、決してそうではありません。
今回からは、近代マネジメントの歴史をもう一度ニュートラルに紐解きながら、創始者であるテイラーとドラッカーが目指した「人間本位のマネジメント」について紐解いていきます。
テイラーとドラッカーが目指した「人間本位のマネジメント」
フレデリック・テイラー(科学的管理法)
一般的には「作業を過度に細分化し、人間を機械のように扱った」と誤解されがちですが、テイラーの真の目的は、当時の現場で横行していた「経営者の勘やきまぐれによる無能な支配、暴力、搾取」から作業者を解放することにありました。客観的な「科学」を導入することで、労働者の尊厳を守り、公平な賃金を保障しようとしたのです。
経営学者の野中郁次郎先生は、科学的管理法について次のように述べています。
「現代経営の第一歩はテイラーから始まった。テイラーを知らずしてマネジメントを語ることはできない。この歴史的業績を風化させてはならない。」「フレデリック W・テイラーは19世紀末、このように述べた。『マネジメントの目的は、雇用主に限りない繁栄をもたらし、併せて、働き手に最大限の豊かさを届けることであるべきだ』」
また、翻訳家の有賀裕子先生も『科学的管理法』のあとがきにおいて、ドラッカーの言葉を引用しながらテイラーの情熱をこう評しています。
「昨今ではテイラーを軽蔑し、その物の見方を『時代遅れだ』と非難する風潮が強いが、テイラーこそ、人類の歴史上でおそらく初めて労働作業を当然のものとして見過ごさず、研究の対象として光を当てた人物である。(中略)氏を研究へと駆り立て、意欲を刺激し続けたのは何よりも、心身を蝕む苦役から労働者を解き放ちたいとの思いだった。(中略)テイラーは、労働の生産性を押し上げ、それによって労働者たちにまずまずの暮らしをさせたいと願ったわけだ。」
●ピーター・ドラッカー(マネジメントの父)
テイラーの志を引き継ぎつつ、マネジメントを単なる管理手法から「人間を幸せにし、人間の強みを引き出すためのリベラルアーツ(教養・哲学)」へと昇華させました。ドラッカーが追求したのは、まさに「人間の尊厳」に裏打ちされた組織のあり方でした。
●テイラーとドラッカーの問い×日本的至誠
西洋マネジメントの原点であるテイラーとドラッカーの「問い」と、私たちが探究している「日本的至誠」を掛け合わせたとき、時代と国境を超えた「真の人間本位の現場管理」の姿が浮かび上がってきます。彼らもまた、恣意的な権力(ウシハク)を排し、現場で働く人々の誠実な役割(至誠)を正当に評価しようとしていたのです。
考察:日本の江戸時代中期に起こった「石門心学」との共鳴
西洋でテイラーが1911年に『科学的管理法』著すより約200年も前の江戸の中期、日本には石田梅岩により創始された「石門心学(せきもんしんがく)」が存在していました。
石門心学とは、武士道から派生した独自の町人道徳(商道)です。武士道が武士の行動規範・誇りであったように、石門心学は商人や職人にとっての倫理や誇りの確立を支えました。石田梅岩は「商人の買利は武士の禄に同じ」と説き、身分や職種の違いを超えて、誰もが己の役割(職分)を誠実に果たすことの中に人間としての道徳と尊厳があることを示しました。
前回の記事(【至誠のマネジメント4】)で触れた松下幸之助先生をはじめ、戦後の高度経済成長を支えた著名な経営者たちの商売の根底には、この石門心学の精神が息づいていたと言われています。石門心学とは、現代のアメリカンビジネスに見られる「今だけ、金だけ、自分だけ」の利益主義ではなく、自らの仕事を通じて社会に誠実な価値を創造し、その結果として事業が発展していくという「至誠」の考え方です。
テイラーがアメリカの過酷な工場現場で「科学」をもって労働者の尊厳を守ろうとしたように、石田梅岩もまた日本の封建社会の中で「心学」をもって働く人々の身分と仕事の尊厳を示しました。手法は「科学」と「心学」で異なりますが、根底にある「現場で働く人間への尊厳と至誠」は合致しています。
次回【至誠のマネジメント6】では、ピーター・ドラッカーが提唱した「人間を幸せにし、人間の強みを引き出すためのリベラルアーツ(教養・哲学)」をさらに深掘りし、現代のプロジェクト現場への応用へと踏む混んでいきます。
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パラーツ計画技術研究所 知の構法構築家 鈴木邦彦
