建築プロジェクトマネジメントの光と影|現代の分断を越える「建築構法100数十年の志」【至誠のマネジメント8】

こんにちは、パラーツの鈴木です。

前回の記事では、ピーター・ドラッカーの「強みを活かす組織論」と宮大工に伝わる口伝「木の癖を組む」を重ね合わせ、規格化によって人を削るのではなく、それぞれの癖や強みを噛み合わせる「人組みの構法」についてお話ししました。

今回は、より実務的かつ現代的なテーマである、建築プロジェクトマネジメント(PM)が抱える課題と、それを乗り越えるための「建築構法100数十年の系譜」について紐解いていきます。

時代の変化に伴い生じた「摩擦」を誰かのせいにするのではなく、先達の深い志に学びながら、現代の現場に「安堵」を取り戻すための大人のバランス(シラス)について考えていきましょう。

まえがき

現代の建築プロジェクトは、技術の高度化、環境性能への要求、多様な関係者の参画により、かつてないほど複雑化・大規模化しています。

この複雑なプロジェクトを円滑に進め、品質・工期・コストを最適化するために導入されたのが「建築プロジェクトマネジメント(PM)」という仕組みです。PMの手法は、間違いなく日本の建築界に大きな整理と発展(光)をもたらしました。

しかし一方で、管理の細分化や専門化が進むにつれ、現場から「手触り感」が失われ、責任の所在が曖昧になってしまうという課題(影)も指摘されてしまうようになっています。

私たちはこの状況を「誰かが悪い」と言うのではなく、社会の発展過程で生じた健全な成長痛として受け止める必要があります。仕組み(PM)の良さを最大限に活かしつつ、そこに「人間の心と安堵」を通わせるにはどうすればよいのか、その答えのヒントは、明治以来100数十年続いてきた「日本の建築構法学の歩み」の中に隠されています。

現代建築PMがもたらした「光」と、現場に生じた「影」

まず、現代のPM方式が果たしてきた役割について、公平な視点で振り返ってみましょう。

1.導入がもたらした「光(成果)」
かつて個人の経験や暗黙知に頼りがちだった建築現場において、PMの手法は事業の透明化、コストの見える化、工程の合理化に大きく貢献しました。設計と施工の役割を客観的に整理し、複雑な関係者の利害を調整する機能は、現代の先進的なビルや施設づくりにおいて欠かせないインフラとなっています。

2.進展に伴い生じた「影(摩擦)」
一方で、契約や数値管理が前面に出すぎることで、次のような摩擦も生じるようになりました。
●責任の分散
細かく分断された管理プロセスの中で、「全体として誰が最終的な質と心を担保しているのか」が見えにくくなる。
●手触り感の喪失
設計者・施工者・職人が「自分の作品・仕事」としての手応えを持ちにくくなり、タスクの消化やリスク回避が優先されてしまう。

これはPMという手法そのものが悪いのではなく、管理の「仕組み」に命(精神)を吹き込む「人間観(シラス)」が不足していたために生じた現象と言えます。

西洋受容と葛藤|中村達太郎先生に見る「風土への適合」の志

このような「西洋由来の合理的な仕組みを導入し、日本の現実にどう適合させていくか」という課題は、実は明治時代の先達たちが最初に直面した苦悩そのものでした。

明治期、お雇い外国人教師のジョサイア・コンドル先生から西洋の組積造(レンガ造と石造)の建築を学んだ日本のアカデミズムは、すぐさま日本の厳しい現実-「頻発する巨大地震」「湿潤な気候風土」-という壁にぶつかりました。

この現実に正面から向き合われたのが、建築構法学の先駆者である中村達太郎先生です。

中村達太郎先生は、西洋の技術や理論をただ鵜呑みにして模倣する(直訳する)ことを良しとしませんでした。日本の風土、地震という逃れられない自然の脅威、そして現場で働く職人たちの技術水準を深く観察し、西洋建築の知恵を「日本の大地に根差す安全な技術」へと適合・昇華させようと苦慮されました。

「仕組みや技術(輸入)を尊びつつも、それを日本の現場と人間(風土)に合わせて包み直す」というこのバランス感覚こそが、日本の構法学の原点であり、現代のPMにも最も求められている姿勢です。

人に「安堵」をもたらす構法学の系譜|内田祥三先生から戦後復興へ

中村達太郎先生の志は、その後、内田祥三(よしかず)先生へと受け継がれました。中村達太郎先生が担当されていた『建築一般構造(第一講座)』は、内田祥三先生により『建築一般構造・各部構造』の基礎(特に耐震・RC造・現場の確実な納まり)が体系化され、人々に安堵をもたらす技術的基盤が築かれました。

内田祥三先生が目指されたのは、単なる計算式の指示や標準化ではありませんでした。それは、「そこで過ごす人々が安心して暮らし、現場でつくる職人が迷いなく安全に工事を進められる『安堵』の基盤をつくること」でした。

その後、松下清夫(きよお)先生、内田祥哉(よしちか)先生へと受け継がれる中で、建築一般構造・各部構造は、「建築構法」と名称変更され、資材が決定的に不足していた戦後復興期に日本を強力に支えました。

工業化や規格化を進めながらも、常にその根底には「人々に安堵をもたらす」という温かい志(至誠)が流れていました。日本の建築構法学とは、決して冷たい工業規格の追及が目的ではなく、人と技術、現場と人間を結び付ける「安堵のインフラ」を構築することが最大の目的なのです。

「法治」を包み込む「敬認(シラス)」の再構築

現代の建築プロジェクトにおいて、人治(個人の感情や力関係)から法治(客観的なルール・契約・PMの手法)へと移行したことは、大きな進化であり必要なプロセスでした。ルールがあるからこそ、私たちは公平かつ安全にプロジェクトを進めることができます。

しかし、法治(ルール)だけでは人は動きません。ルールという骨組み(ウシハク的基盤)を尊重した上で、その中にお互いを敬い認める「敬認(シラス)」の精神を通わせることが不可欠です。

●分断から敬認へ
発注者、PM、設計者、施工者、職人が、それぞれの専門職分を「対等な仲間」として互いに尊重し合う。
●ルールを「守り合うための共通言語」にする
契約や管理ツールを「相手を監視・縛るための道具」として使うのではなく、「全員が安心して良いモノづくりに没頭するための共通の道しるべ」として活用する。

誰かを排除したり批判したりするのではなく、現代の優れたPM手法(法治)を土台としてしっかりと受け入れながら、そこに100数十年の建築構法学が培ってきた「安堵と敬認の心」を重ね合わせる。これこそが、誰ものが喜び、関係者全員が報われる「大人の至誠マネジメント」です。

考察:現代の現場で「手触り感と安堵」を取り戻すために

私たちが日々携わるワークプレイス構築や建築の現場において、この「光と影の統合」を実践するためのポイントを3つ紹介いたします。

1.PM手法と管理ツールへの感謝と活用
工程表やコスト管理表(PMツール)を軽視せず、プロジェクトの安全を守る「頼もしいインフラ」として使いこなす。

2.「責任」を「誇り(職分)」へと読み替える
単に責任範囲を押し付け合うのではなく、「ここから先は自分の職人技(専門知)が活きる領域だ」という手触り感と誇りを現場に手渡す。

3.場に「安堵」があるかを常に問いかける
「この計画は、使い人、つくる職人、管理する人に本当に安堵(安心とゆたかさ)をもたらしているか」を議題の基準(シラス)に置く。

現代の高度なマネジメント技術と、先達の先生方や先輩方が命を懸けて繋いできた建築構法学の志。この二つが美しく嚙み合ったとき、現代のプロジェクト現場は再び活気に満ち、人々が活き活きと協創する素晴らしい「場」へと生まれ変わるはずです。

次回【至誠のマネジメント9】では、今回の「構造やインフラ」の視点から一歩深め、「人間が直接触れ、佇む空間の質感や身体性」に焦点を当てます。

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パラーツ計画技術研究所 知の構法構築家 鈴木邦彦

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管理人

パラーツ計画技術研究所 代表 / 一級建築士・工学修士

専門領域:建築構法・建築生産・ワークプレイスデザイン・ものづくり経営
主要資格等:一級建築士 / 監理技術者 / 儀礼本科修了 / 茶道文化検定
実績・執筆:Amazonカテゴリ1位獲得著者(単著3冊)、公益財団法人 建築技術教育普及センター テキスト共著 ほか

【パラーツにおける「3つの探求軸」】
■ 建築構法の専門家として
一級建築士として長年建築の現場や監理に携わってきた視点から、構法学の本質を現場実務に活かすことを探求してまいりました。当ブログ「パラーツ」にて、その知見と技術的成果を余すことなく公開していきます。

■ ものづくり経営学の探求者として
ものづくり経営学に基づくマネジメントを探求し、現場実務のマネジメントに活かす実践的な方法を伝えていきます。

■ 日本歴史・文化の探求者として
日本の歴史の探求者として、先達に感謝しながら、歴史の本質と先達の思いを未来へ繋いでまいります。

【学歴・職歴】
・1987年:明治大学大学院 博士前期課程修了(工学修士)
・1987年-1997年:集工舎建築都市デザイン研究所
・1997年-2002年:機械土木系事業会社
・2002年-:インテリア・什器系事業会社
・2022年-:パラーツ計画技術研究所 設立
「建築・都市・土木・インテリア」という多様な領域にまたがり、「開発・設計・監理・管理」という多角的な実務経験を長年にわたり積み重ねてまいりました。

【執筆・著書実績】
[単著]
・『ワークプレイスづくり 安心とゆたかさのために』
・『ワークプレイスづくり 現場哲学を持ち創意工夫を凝らす方法!』
・『ワークプレイスの知 苦手意識があるワーカーのための法を味方につける方法!』

[共著・公的テキスト等]
・『インテリアプランナー更新講習テキスト ワークプレイスのリ・デザイン』(公益財団法人 建築技術教育普及センター)
・『インテリアプランナー更新講習テキスト New NormalとWorkplace』(公益財団法人 建築技術教育普及センター)
・『SD別冊25 近未来実験集合住宅NEXT21「部品3パート」』
・『コンバージョン[計画・設計]マニュアル「サブシステム・インフィル」』
・『群居29 特集X年目のすまい』 ほか

【ブログ運営の目的と基本姿勢】
当ブログは、これまでの人生の中で縁をいただいた専門・組織・分野における多様な実務経験と実直な学びを基に、ワークプレイスに関連する技術的成果により、これからの未来を生きる後世の役に立つために創業した「パラーツ計画技術研究所」の公式ブログです。

自らの専門分野を広義・狭義にわたり説明すると共に、関連する先達や第一人者の成果を尊重・引用させていただきながら、読者の実務や人生に役立つ「生身の知恵(単なる知識ではなく、本質を見抜く智慧)」のプラットフォームとして発信を行っています。

[参考文献およびAI協働ポリシー]
本記事の執筆にあたっては、時代や分野を越えた「より良い方法」を導き出すため、各分野の先達や第一人者の知見を拝受すると共に、AI(Google Gemini)との対話を通じて得られた知見を情報の整理および構造的な考察の補助として活用しています。人間の「身体感覚(手)」とAIの「知(脳)」が尊厳を持って協働し、時空を越える「安堵」の空間を追求する――これからの時代における「人間とAIの共生」のあり方を、本ブログを通じて実践・記録しています。

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