こんにちは、パラーツの鈴木です。
前回の記事では、ピーター・ドラッカーがマネジメントを単なる管理の技術ではなく「リベラルアーツ(人間学)」と定義した本質を、映画『のぼうの城』も見る「ウシハク(力に依よる支配)」と「シラス」(信頼による統治)」の対比から紐解きました。
今回は、ドラッカーの組織論の核である「強みを活かす」思想と、法隆寺や薬師寺の再建を手掛けた宮大工に伝わる口伝「木の癖(くせ)を組む」を重ね合わせます。均一な規格品として人を丸めるのではなく、不揃いな人の「偏りや癖(強み)」をどのように嚙み合わせ、千年に耐えうる強い組織(人組みの構法)を構築すべきかを考察します。
(パラーツ×Gemini)
まえがき
現代の組織管理において、私たちが最も陥りやすい罠が「減点主義」と「平均化(規格化)」です。
たとえば、
「この部下は計画性が足りないから直させよう!」
「この職人は頑固だからマニュアル通りに丸め込もう」
しかし、人間の欠点を削り落とし、四角い規格品に加工しようとすればするほど、その人が持つ本来の「突出した強み(生気)」まで削ぎ落とされてしまいます。
「人は平均化されるために働くのではない。その人が持つ唯一無二の強みと解き放ち、成果を出すために組織が存在する。」
このドラッカーの問いに対し、日本の伝統建築を支えてきた宮大工たちは、すでに千年前から見事な実践知(構法)をもって応えていました。
ドラッカー「強みを活かす組織論」の真意|弱みを無意味化する
ドラッカーは『現代の経営』や『経営者の条件』の中で、組織の目的について次のように断言しています。
「組織の目的は、人の強みを爆発させ、その人の弱みを無意味化することにある。」
成果を生み出すのは、その人が持つ「強み」だけです。そして、突出した強みを持つ人間には、必ずと言っていいほど大きな偏りや欠点(癖)が同居しています。
たとえば、
●アイデアが溢れ出る人間は、地道な事務処理が苦手である。
●現場の技術を極めた職人は、論理的なプレゼンテーションが苦手である。
現代の技術的マネジメントは、この「欠点」ばかりに目が行き、研修や指導で平均化へ矯正しようとします。しかし、弱みを無くしたところで生まれるのは「無難で害のない、成果も出さない人間」に過ぎません。
真のマネジメントの役割とは、欠点を直すことではなく、「ある人の強みが発揮されたときに生じる歪みを、別の強みを持つ人間の配置によって補完し、打ち消し合う構造(配役)をつくること」なのです。
宮大工口伝「塔を組むは木を組まず、人を組む」
このドラッカーの思想と驚くほど一致するのが、最後の宮大工棟梁と称された西岡常一氏らに伝わる「法隆寺の木造(きやり)口伝」です。
一、塔を組には 木を組まず 人の心を組め
二、木の癖を組め
自然の山で育った木は、一本として同じものはありません。日当たりの良い南側で育った木、風雪に耐えて育った木、右にねじれる癖のある木、左にねじれる癖のある木など、すべて強烈な「癖(個性)」を持っています。
もし宮大工が、作業の効率化だけを考えてすべての木を工場で同じ太さの角材に削り直してしまったらどうなるでしょうか。表面的には綺麗な立方体が並びますが、木が持つ本来の繊維の強度は寸断され、数十年で歪みが生じてしまう原因になってしまいます。
宮大工は木を無理に真っ直ぐ削ることはしません。「右にねじれる木」と「左にねじれる木」を向かい合わせにして対(ペア)で組み上げます。
木が乾燥し、互いに反対方向へねじれようとする強力な応力(内なる癖)同士を正面からぶつけ合わせることで、引き寄せ合い、全体として微動だにしない千年の構造体を創り出すのです。
まさに、「木の癖(強度と欠点)を削るのではなく、癖と癖と噛み合わせることで欠点を無意味化する」という人組みの構法そのものです。
「人組みの構法」がもたらす『Success=Succeed』の意味
宮大工の口伝には、もう一つ重要な教えがあります。
「木を買わず 山を買え」
「南側に育った木は 塔の南側に使え」
これは、木という「素材」だけを見るのではなく、その木がどのような環境で育ち、どんな歴史を経てそこに立っているかという「背景(文脈)ごと、まるごと理解し、敬意を払え(シラス)という教えです。
人間も全く同じです。一人ひとりのワーカーや職人には、育ってきた環境、培ってきた経験、譲れない価値観(精神的背景)があります。
1.背景へに敬意(シラス)
個人の生い立ちや特性(癖)を「偏り」として排除せず、尊い個性として丸ごと承認する。
2.強みの噛み合わせ(人組み)
互いの弱みを補い合うチーム構造を設計し、一人ひとりが自分の得意な職分で没頭できる場を整える。
3.志の継承(Succeed)
「この仲間とならば、自分一人では到達できない仕事が成し遂げられる」という強い確信(忠義と至誠)が現場に宿る。
「自分さえ良ければいい」という私利私欲を離れ、互いの癖を受け入れ合って組み上がったチームは、単なる業務処理集団を超えて、次世代へと至誠の技術と精神を継承していく「真の成功(Succeed)」を体現します。
考察:現代のプロジェクト現場・ワークプレイスへの実践応用
現代のオフィス構築やプロジェクトマネジメント(PM)において、私たちはこの「人組みの構法」をどのように実践すべきでしょうか。
●デジタルツール(WBS・KPI・AI)は「平らな土台」として使う
工程管理や予算管理などの客観的データは、建物の「基礎」として正確に固めます。
●人間の配置(配役)には「棟梁の目」と持つ
基礎の上に立つメンバーの配置においては、個々の「思考の癖」を見極めます。
・構想力はずば抜けているが細部が甘いリーダーには、精密なチェックが得意なサポート役を「対」として組ませる。
・職人肌でこだわりが強すぎる専門家には、その価値を翻訳して周囲に伝えられる架け橋役を噛み合わせる。
管理ツールで人間を縛るのではなく、管理ツールを「土台」として下敷きにし、その上で人間の癖と強みを活かした柔軟な木組みを行う。これこそが、AI時代において人間が主役であり続けるための「至誠のプロジェクトマネジメント」です。
次回【至誠のマネジメント8】では、より実務的かつ現代的なテーマである、建築プロジェクトマネジメント(PM)が抱える課題と、それを乗り越えるための「建築構法100数十年の系譜」について紐解いてまいります。
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パラーツ計画技術研究所 知の構法構築家 鈴木邦彦
