こんにちは、パラーツの鈴木です。
前回の記事では、100年程前のテイラーの「科学的管理法」と日本の江戸時代に花開いた「石門心学」が、ともに「力による支配や搾取」を退け、働く人々の身分や職分の尊厳を守る「至誠」を目指していたことをお話しいたしました。
今回は、テイラーの志を継承し、マネジメントを「人間を幸せにし、その強みを引き出すためのリベラルアーツ(教養・人間哲学)」」へと昇華させたピーター・ドラッカーの思想を深く紐解きます。映画『のぼうの城』で描かれた現場の「士気(モラール)」の構造を例に挙げながら、私たちが目指すべき「真の人間本位のマネジメント」について考えていきましょう。(パラーツ×Gemini)
まえがき
前回確認したように、日本の「石門心学(石田梅岩)」は「商人の買利は武士の禄と同じ」と説き、職分に応じた誠実な働き(至誠)の中に人間の道徳と尊厳を見出しました。これは、過酷な工場現場において客観的な「科学」で労働者の生活と尊厳を守ろうとしたテイラーの問いと響き合っています。
ドラッカーはこの「人間の尊厳」への問いをさらに押し進め、マネジメントとは単なる組織統制のツールや計算技術ではなく、歴史・哲学・心理・文化・人間存在そのものを扱う「リベラルアーツ(教養・人文学)」であると定義しました。
「人間は数値やマニュアルのギア(歯車)ではない。では、何が人の心を動かし、現場に爆発的な自律的エネルギー(士気)をもたらすのか?」
この問いに対する解を、ひとつの映画作品が見事に映し出しています。
映画『のぼうの城』に見る「管理の技術」と「人間学」の決定的な差
この「技術としての管理」と「リベラルアーツ(人間学)としての統治」の差は、映画『のぼうの城』で描かれた忍城(おしじょう)の戦いを観ると鮮やかに理解できます。
1.石田三成の「技術的マネジメント(ウシハク)」
豊臣方の石田三成が展開したのは、2万の大軍、圧倒的な資金力、高度な水利土木技術を駆使した巨大な水攻めでした。これらは論理的で完璧な「技術的計画」に見えます。しかし、そこでは人が「命令に従う機能(リソース)」として扱われているため、現場には「義務感」と「硬直」しか生まれません。想定外の事態が起きれば計画は崩壊し、指示待ちの隙間が生じます。
2.成田長親(のぼう様)の「人間学マネジメント(シラス)」
一方、わずか500の兵と農民たちで立ち向かった城主・.成田長親(のぼう様)は、武芸も智謀も秀でていませんでした。しかし、のぼう様は、日頃から領民と同じ目線で田植えをし、泥まみれ、一人ひとりの存在とその営みを丸ごと承認・共有(シラス)していました。
圧倒的な危機に瀕した時、農民や武士たちは誰に強いられるでもなく、「のぼう様と自分たちの田畑・共同体を守る」ために自発的に立ち上がり、奇策と一致団結で2万の大軍を翻弄しました。
ここにあったのは、手引きや数値を超えた「人間への深い信頼と愛着から生まれる爆発的な士気(モラール)」です。仕事が単なる「作業」を超えて、共同体の生命と誇りを守る「神事(祈り)」へと昇華した瞬間でした。
ドラッカーが求めたマネジメントとは、まさに石田三成のような「手法と数値による他律的なコントロール」ではなく、成田長親のように「人間の尊厳と強みを引き出し、自律的な協創を生み出すリベラルアーツ(シラス)」そのものだったのです。
石門心学とリベラルアーツが交差する「Success=Succeed」の境地
石門心学が目指した「一隅を照らす職分の道徳」と、ドラッカーが提唱した「リベラルアーツとしてのマネジメント」は、ある一つの重要なキーワードで結ばれます。
それが、「Success(成功)の語源はSucceed(継承する・次に続く)である」という思想です。
日本の神道における祈りの根本が「私利私欲(今だけ・金だけ・自分だけ)ではなく、共同体の命と糧を未来へつなぐ「五穀豊穣」と「子孫繁栄」にあるように、真のマネジメントにおける成果(Success)とは、単なる四半期利益や一時的な効率ではありません。
●現場で働く仲間への忠義と尊厳を守ること
●育んできた技術や至誠の心(精神)を次の世代へ継承すること(Succeed)
●誰もが「この仲間と共にこの目的を成し遂げたい」と没頭できる「場」を遺すこと
「自分さえ良ければいい」という個人主義や「数字の防衛」を超えて、共同体の存続と発展(Succeed)に命を傾ける時、私たちの心には損得勘定を超えた至誠と強い士気が宿ります。
考察:現代のプロジェクト現場に求められる「棟梁型PM」
現代のワークプレイスづくりや建築プロジェクトの現場を見渡すと、大半が技術的マネジメントで、人間的マネジメントまで至っていないことがほとんどだと思います。チェックシート、KPIなどで現場の業務の内容を縛ろうとすればするほど、現場の職人などの心は離れ、責任の押し付け合い(隙間の放置)が発生してしまう危険性が高まってしまいます。
今、私たちが取り戻すべきは、全体像を見渡し、職人の「癖(木組み・人組み)を活かし、場の「気(エネルギー)」を整える「棟梁型のプロジェクトマネジメント」ではないでしょうか。
1.契約やチェックシートなどは、骨組みとして使いこなします。
2.その上位に「人間の尊厳と場の調和(シラス)」というリベラアーツを置きます。
この二つの統合こそが、過度な保身や監視から人間を開放し、自発的な工夫と喜びが溢れ出る「手触りのある現場」を再構築する唯一の道です。
次回【至誠のマネジメント7】では、ドラッカーの「強みを活かす」組織論と、宮大工の口伝「木の癖を組む」思想をさらに具体的に嚙み合わせ、現代のワークプレイス組織づくりへの実践的応用を展開していきます。
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パラーツ計画技術研究所 知の構法構築家 鈴木邦彦
