ドラッカーが説いた「リベラルアーツとしてのマネジメント」と『のぼうの城』に見る現場の士気【至誠のマネジメント6】

こんにちは、パラーツの鈴木です。

前回の記事では、100年程前のテイラーの「科学的管理法」と日本の江戸時代に花開いた「石門心学」が、ともに「力による支配や搾取」を退け、働く人々の身分や職分の尊厳を守る「至誠」を目指していたことをお話しいたしました。

今回は、テイラーの志を継承し、マネジメントを「人間を幸せにし、その強みを引き出すためのリベラルアーツ(教養・人間哲学)」」へと昇華させたピーター・ドラッカーの思想を深く紐解きます。映画『のぼうの城』で描かれた現場の「士気(モラール)」の構造を例に挙げながら、私たちが目指すべき「真の人間本位のマネジメント」について考えていきましょう。(パラーツ×Gemini)

まえがき

前回確認したように、日本の「石門心学(石田梅岩)」は「商人の買利は武士の禄と同じ」と説き、職分に応じた誠実な働き(至誠)の中に人間の道徳と尊厳を見出しました。これは、過酷な工場現場において客観的な「科学」で労働者の生活と尊厳を守ろうとしたテイラーの問いと響き合っています。

ドラッカーはこの「人間の尊厳」への問いをさらに押し進め、マネジメントとは単なる組織統制のツールや計算技術ではなく、歴史・哲学・心理・文化・人間存在そのものを扱う「リベラルアーツ(教養・人文学)」であると定義しました。

「人間は数値やマニュアルのギア(歯車)ではない。では、何が人の心を動かし、現場に爆発的な自律的エネルギー(士気)をもたらすのか?」

この問いに対する解を、ひとつの映画作品が見事に映し出しています。

映画『のぼうの城』に見る「管理の技術」と「人間学」の決定的な差

この「技術としての管理」と「リベラルアーツ(人間学)としての統治」の差は、映画『のぼうの城』で描かれた忍城(おしじょう)の戦いを観ると鮮やかに理解できます。

1.石田三成の「技術的マネジメント(ウシハク)」

豊臣方の石田三成が展開したのは、2万の大軍、圧倒的な資金力、高度な水利土木技術を駆使した巨大な水攻めでした。これらは論理的で完璧な「技術的計画」に見えます。しかし、そこでは人が「命令に従う機能(リソース)」として扱われているため、現場には「義務感」と「硬直」しか生まれません。想定外の事態が起きれば計画は崩壊し、指示待ちの隙間が生じます。

2.成田長親(のぼう様)の「人間学マネジメント(シラス)」

一方、わずか500の兵と農民たちで立ち向かった城主・.成田長親(のぼう様)は、武芸も智謀も秀でていませんでした。しかし、のぼう様は、日頃から領民と同じ目線で田植えをし、泥まみれ、一人ひとりの存在とその営みを丸ごと承認・共有(シラス)していました。

圧倒的な危機に瀕した時、農民や武士たちは誰に強いられるでもなく、「のぼう様と自分たちの田畑・共同体を守る」ために自発的に立ち上がり、奇策と一致団結で2万の大軍を翻弄しました。

ここにあったのは、手引きや数値を超えた「人間への深い信頼と愛着から生まれる爆発的な士気(モラール)」です。仕事が単なる「作業」を超えて、共同体の生命と誇りを守る「神事(祈り)」へと昇華した瞬間でした。

ドラッカーが求めたマネジメントとは、まさに石田三成のような「手法と数値による他律的なコントロール」ではなく、成田長親のように「人間の尊厳と強みを引き出し、自律的な協創を生み出すリベラルアーツ(シラス)」そのものだったのです。

石門心学とリベラルアーツが交差する「Success=Succeed」の境地

石門心学が目指した「一隅を照らす職分の道徳」と、ドラッカーが提唱した「リベラルアーツとしてのマネジメント」は、ある一つの重要なキーワードで結ばれます。

それが、「Success(成功)の語源はSucceed(継承する・次に続く)である」という思想です。

日本の神道における祈りの根本が「私利私欲(今だけ・金だけ・自分だけ)ではなく、共同体の命と糧を未来へつなぐ「五穀豊穣」と「子孫繁栄」にあるように、真のマネジメントにおける成果(Success)とは、単なる四半期利益や一時的な効率ではありません。

●現場で働く仲間への忠義と尊厳を守ること
●育んできた技術や至誠の心(精神)を次の世代へ継承すること(Succeed)
●誰もが「この仲間と共にこの目的を成し遂げたい」と没頭できる「場」を遺すこと

「自分さえ良ければいい」という個人主義や「数字の防衛」を超えて、共同体の存続と発展(Succeed)に命を傾ける時、私たちの心には損得勘定を超えた至誠と強い士気が宿ります。

考察:現代のプロジェクト現場に求められる「棟梁型PM」

現代のワークプレイスづくりや建築プロジェクトの現場を見渡すと、大半が技術的マネジメントで、人間的マネジメントまで至っていないことがほとんどだと思います。チェックシート、KPIなどで現場の業務の内容を縛ろうとすればするほど、現場の職人などの心は離れ、責任の押し付け合い(隙間の放置)が発生してしまう危険性が高まってしまいます。

今、私たちが取り戻すべきは、全体像を見渡し、職人の「癖(木組み・人組み)を活かし、場の「気(エネルギー)」を整える「棟梁型のプロジェクトマネジメント」ではないでしょうか。

1.契約やチェックシートなどは、骨組みとして使いこなします。
2.その上位に「人間の尊厳と場の調和(シラス)」というリベラアーツを置きます。

この二つの統合こそが、過度な保身や監視から人間を開放し、自発的な工夫と喜びが溢れ出る「手触りのある現場」を再構築する唯一の道です。

次回【至誠のマネジメント7】では、ドラッカーの「強みを活かす」組織論と、宮大工の口伝「木の癖を組む」思想をさらに具体的に嚙み合わせ、現代のワークプレイス組織づくりへの実践的応用を展開していきます。

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パラーツ計画技術研究所 知の構法構築家 鈴木邦彦

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管理人

パラーツ計画技術研究所 代表 / 一級建築士・工学修士

専門領域:建築構法・建築生産・ワークプレイスデザイン・ものづくり経営
主要資格等:一級建築士 / 監理技術者 / 儀礼本科修了 / 茶道文化検定
実績・執筆:Amazonカテゴリ1位獲得著者(単著3冊)、公益財団法人 建築技術教育普及センター テキスト共著 ほか

【パラーツにおける「3つの探求軸」】
■ 建築構法の専門家として
一級建築士として長年建築の現場や監理に携わってきた視点から、構法学の本質を現場実務に活かすことを探求してまいりました。当ブログ「パラーツ」にて、その知見と技術的成果を余すことなく公開していきます。

■ ものづくり経営学の探求者として
ものづくり経営学に基づくマネジメントを探求し、現場実務のマネジメントに活かす実践的な方法を伝えていきます。

■ 日本歴史・文化の探求者として
日本の歴史の探求者として、先達に感謝しながら、歴史の本質と先達の思いを未来へ繋いでまいります。

【学歴・職歴】
・1987年:明治大学大学院 博士前期課程修了(工学修士)
・1987年-1997年:集工舎建築都市デザイン研究所
・1997年-2002年:機械土木系事業会社
・2002年-:インテリア・什器系事業会社
・2022年-:パラーツ計画技術研究所 設立
「建築・都市・土木・インテリア」という多様な領域にまたがり、「開発・設計・監理・管理」という多角的な実務経験を長年にわたり積み重ねてまいりました。

【執筆・著書実績】
[単著]
・『ワークプレイスづくり 安心とゆたかさのために』
・『ワークプレイスづくり 現場哲学を持ち創意工夫を凝らす方法!』
・『ワークプレイスの知 苦手意識があるワーカーのための法を味方につける方法!』

[共著・公的テキスト等]
・『インテリアプランナー更新講習テキスト ワークプレイスのリ・デザイン』(公益財団法人 建築技術教育普及センター)
・『インテリアプランナー更新講習テキスト New NormalとWorkplace』(公益財団法人 建築技術教育普及センター)
・『SD別冊25 近未来実験集合住宅NEXT21「部品3パート」』
・『コンバージョン[計画・設計]マニュアル「サブシステム・インフィル」』
・『群居29 特集X年目のすまい』 ほか

【ブログ運営の目的と基本姿勢】
当ブログは、これまでの人生の中で縁をいただいた専門・組織・分野における多様な実務経験と実直な学びを基に、ワークプレイスに関連する技術的成果により、これからの未来を生きる後世の役に立つために創業した「パラーツ計画技術研究所」の公式ブログです。

自らの専門分野を広義・狭義にわたり説明すると共に、関連する先達や第一人者の成果を尊重・引用させていただきながら、読者の実務や人生に役立つ「生身の知恵(単なる知識ではなく、本質を見抜く智慧)」のプラットフォームとして発信を行っています。

[参考文献およびAI協働ポリシー]
本記事の執筆にあたっては、時代や分野を越えた「より良い方法」を導き出すため、各分野の先達や第一人者の知見を拝受すると共に、AI(Google Gemini)との対話を通じて得られた知見を情報の整理および構造的な考察の補助として活用しています。人間の「身体感覚(手)」とAIの「知(脳)」が尊厳を持って協働し、時空を越える「安堵」の空間を追求する――これからの時代における「人間とAIの共生」のあり方を、本ブログを通じて実践・記録しています。

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