こんにちは、パラーツの鈴木です。
本日は、江戸初期の国家的大事業「改暦(日本独自の暦づくり)」と全国測量を描いた名著『天地明察』の真理を紐解きながら、現代の建築マネジメント及びプロジェクト管理の本質について考えてみたいと思います。
『天地明察』が私たちに教えてくれるのは、単なる歴史ドラマではありません。そこには「地域社会の基盤をみんなで作り、守る」という共通の目的(Why)を軸に、職人・民・技術者が互いに敬い認める(シラス)協働の文化である「普請(ふしん)」の真髄と、自ら問いを立てる「算術・和算」の知的士気が脈々と息づいていることです。
まえがき:利益構造とそれに伴うヒエラルキー
●『天地明察』にみる利権構造
『天地明察』では、暦という「天と人、人と人の約束事」である重要な社会インフラであるにもかかわらず、約800年もの間、朝廷や公家が利権を守るために有能な人材を締め出し、形骸化した古い暦を盲信させていた歴史的事実が描かれています。
●建築現場のおけるヒエラルキーの弊害
翻って現代の建築現場を見渡すと、依然として強い階層構造(ヒエラルキー)が色濃く残っているのを感じます。しかし、「ものづくり経営学」的な視点に立てば、ものづくりの本質とは「設計の想い(意図)+プロセスの整流」にほかなりません。
本質的な価値創造において、硬直化したヒエラルキーは本来不要なものです。力任せの統制は現場に「不整流(滞りやミス)」をもたらし、大局的に見れば誰も幸福にならない構造を生み出してしまいます。
●本質的な課題:Howから「Why」へ
現在の建築現場やプロジェクト管理において、私たちは資格や肩書、過去の慣行といった「How(看板・手段)に頼り過ぎていないでしょうか。
◆『天地明察』が示す大事業の真理:渋川春海が貫いた「Why」と「一本釣り」
●改暦(日本独自の暦づくり)の真髄
渋川春海(安井算哲)が挑んだ改暦は、単なる計算テクニックや権威付け(How)ではありませんでした。その根底になったのは、「民の暮らしに理にかなった正しき時を届け、生活の安堵を守る」という、命懸けの命題・目的(Why)でした。
●保身を剥ぎ落とす「一本釣り」の強さ
保身と利権に汲々(きゅうきゅう)とする中間ヒエラルキー(朝廷や古い陰陽道の世界)を排し、幕府トップ(保科正之公や将軍・徳川家綱公)の覚悟と、専門家である渋川春海の「至誠」が一直線に直結する「一本釣り」の意思決定構造であったからこそ、この前代未聞の国家的大事業は成就しました。
●算願(絵馬の問い)に見る「知の士気」
江戸時代には、難解な数学の問いと答えを絵馬に記して神社仏閣に奉納する「算額(さんがく)」という文化がありました。これは、日本独自の数学である「和算」の向上と、真理に到達できたことへの感謝を神仏に捧げる行為「祈願」でした。
和算の美しさは、誰かに与えられた解法に従うのではなく、自ら「問い」を立て、自然の理を解き明かすという悦びにありました。そこには看板(How)に頼らない、自律した知の士気が宿っていたのです。
◆福地桜痴の視点から紐解く:「士気の低下」と「普請の精神」の失落
●なぜ幕府は倒れたのか(福地桜痴の史観より)
明治維新において、なぜ約260年続いた江戸幕府は倒れたのでしょうか。なぜ自らが天下を統治しながら、主体的に開国・近代化を進めることができなかったのかという素朴かつ根本的な疑問が生じます。
幕末の幕臣・ジャーナリストとしても異彩を放った福地桜痴(『幕末政治史』等)が冷徹に見抜いたのは、単なる薩長の軍事的な「正義」ではありませんでした。それは、260年の泰平の中で幕府という組織から「建国の理念(Why)」が抜け落ち、制度や家格の保身(How)に走ったことによる「組織の自滅」であったと分析されています
●「士気」の形骸化と官僚主義
初期の徳川社会には「泰平の世を築き、民を安堵させる(シラス)」という強烈な理念(Why)が存在していました。しかし幕末には、役職や家格という「看板(How)」を守るだけの無事事案・官僚主義へ陥り、組織の士気は形骸化してしまいました。
●「あまねく請う(普請)」の本来の意味
江戸時代の「普請(ふしん)」とは、現代のような単なる工事発注や利権の奪い合い(ウシハク)ではありませんでした。言葉の通り「あまねく請う」、すなわち「地域社会の基盤をみんなで作り、守る」という共通の目的(Why)のために、職人・民・技術者が互いに敬い認める(シラス)協働の精神だったのです。
●「名声のため」から「場と安堵のため」へ
個人の名声(How)のために集まる現場には、不信感と責任の擦り付け合い(契約を盾にした自己防衛)が生まれます。一方で、その「場の目的(安堵のWhy)」のために集まる現場には、自ずと真の「普請の精神」が宿ります。
◆真理を積み上げ「整流」を導き、敬認(シラス)へ向かい安堵を得る
●AIとロボティクスいよる「シラス(敬認)」の仕組み化
特権的ヒエラルキーを薄め、現場にスムーズな「整流」をもたらすことは決して不可能ではありません。客観的な「データや数」、そしてAIやロボティクスといった現代の技術を正当に活用し、誰もが納得できる透明性の高い仕組み(シラス化)を「至誠」をもって構築する先に、その実現があります。
●真理の積み上げが突破口を作る
地道な事実と真理(Why)の積み重ねこそが、あらゆる利権や虚飾、古い慣行を覆す唯一にして最大の力となります。
あとがき:パラーツが提案する「Whyを問うプロジェクトマネジメント」
●看板意識(How)を乗り越え、「問い(Why)」を背負う
プロジェクトマネージャー(PM)や設計者の真の価値は、資格や肩書に安住することではありません。「このプロジェクトは何のために存在するのか」という根本の問い(Why)を掲げ、関わるすべての人々の「至誠」を引き出すことにあります。
●「敬認(シラス)」の現場学へ
契約書で身を守るだけのドライな人間関係を超え、互いの職責を尊重し「あまねく請う」普請の精神を現代の施工・設計システムの中に再構築すること。これこそが、パラーツが提案する「Whyを問うプロジェクトマネジメント」です。
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パラーツ計画技術研究所 知の構法構築家 鈴木邦彦
