こんにちは、パラーツの鈴木です。本日は、「無心・無名」について説明いたします。
無心の美
私は、建築を選択して、今までデザインや技術を学んで来た訳ですが、なぜか、雑誌などのメディアで取り上げられているような流行を追って時代の先端を行くデザインやものづくりに興味が沸くことがなく、その感性には付いていけないというのが、正直な感想です。
そんな私が、学生の頃から、納得して向き合うことが出来たのは”用の美・民藝の世界”で、数年前からは、古美術・骨董の世界です。いったい何が違うのでしょうか?
柳宗理さんの言葉を借りると、「本当の美は生まれるもので、つくりだすものではない。」というイメージの表現になると思います。
深澤直人さんが、民藝を評して、”無の心”が生んだ「健全の美」の中で書かれている文章に、「愛さずにはいられない」「目にするだけで思わず顔がほころんでしまう、えも言われぬ魅力」という表現がありますが、愛でるという世界観の骨董とも共通する感覚なのかもしれません。
参考文献のDiscover Japan Vol.52には、「世界が「日本のものづくり」に惚れる理由について、その秘訣を「民藝」」という視点で説明されています。民藝は、生活の基盤となるモノを提供し、生活の営みや人が生きることを支える思想ですので、日本に根付いて世界が認めているのだと思います。
手で考える「無心の美」
民藝の思想を受け継がれている、柳宗理さんを例に説明すると、
・デザインの創造とは、表面上の外観などの変化ではなく、内部機構を変革すること。
・デザインの形態美は、表面上のお化粧づくりではなく、内部から滲み出たもの。
・本当の美は生まれるもので、つくりだすものではない。
という考え方の基に、模型を作り、材料と向き合い、手で考えて造られています。
私の感覚では、すべての創造物は、頭ではなく、手が考える(手が勝手に動いて方針を決めて、頭が付いていく感覚)という感覚です。私の経験によると、習いたての頃は無い感覚でも、熟練していくことことで、ある時に、誰もが味わうことができる感覚ではないかと思います。
無名の美・アノニマスとは?
アノニマスの語源は、ギリシャ語で「名前ない」の意味です。
民藝の世界は、作者不評のものが多く、人に使われる(用途)という目的のための美の世界です。
手作りの民藝に代わる柳宗理さんのアノニマス・デザインは、機械生産時代のアノニマスです。
私は、作者の名前ではなく、作者の技能(スキル)にポイントがあると解釈しています。
「誰が作ったとしても、用に徹した美しいモノ」ということだと思います。
私の専門の建築構法の内田賞委員会が、日本の現代建築構法の発展に貢献したモノ(1988年から10数年で8件)に内田賞を顕彰された理由は、無名の方々の努力に報いることでした。
また、建築構法発展の要因は、以下です。
・誰でも、どこでも、それが手の届く価格で使える技術であること。
・名前も知らぬ多くの人々の知恵と裏付けがあったこと。
・完成された生産流通システムがあったこと。
・誰がつくったかよくわからないけれど、誰もがそれを頼りにしている。
建築構法という視点で見ると、普及するための要因が加わってくるのかもしれません。
まとめ
base 名・定
デザイン行為は、経済的側面を抜きにはできないため、コマーシャルな方向へ行くのは必然と思います。しかし、それが行き過ぎてしまう場合は、個人や組織にとって、また社会にとって、プラスかどうかには疑問が残ります。
建築やものには、「名(名建築・名所・名著ほか)」や「定(定番ほか)」と付くものがあります。そこまで到達したものは、ビジネス・文化・環境等の多方面に渡って、良い方向なのかもしれません。
パラーツは、ブランド化を目指しますが、気持ちの上ではアノニマスです。
「名○○」と「定○○」を目指しています。
参考文献等
参考文献 Discover Japan Vol.52
参考文献 (財)柳工業デザイン研究所:Yanagi Design 平凡社 2008.08.25
参考文献 内田賞委員会事務局:内田賞顕彰事績集 日本の建築を変えた八つの構法 2002.09.04